ストーリー
●半蔀(はじとみ)●
京都、北山の雲林院に住む僧が、ひと夏かけた安居の修行(90日間籠もる座禅行)を全うする頃、毎日供えてきた花のために立花供養を行う。
すると夕暮に女がひとり現れ、一本の白い花を供えた。
僧が、美しく可憐なその花の名は何か、と尋ねると、女は夕顔の花であると告げる。
僧が女の名を尋ねると名乗らなくともそのうちにわかるだろう、私はこの花の陰からきた者であり、五条あたりに住んでいる、と言い残して、花の中に消える。
里の者から、光源氏と夕顔の君の恋物語を聞いた僧は、先刻の言葉を頼りに五条あたりを訪ね昔のまま、半蔀に夕顔が咲く寂しげな家を見つける。
僧が菩提を弔おうとすると、半蔀を上げて夕顔の霊が現れ、源氏との恋の思い出を語り、舞を舞う。
そして僧に重ねて弔いを頼み、夜が明けきらないうちにと半蔀の中へ戻っていく。
夜が明け、夢中の出来事と知る。
●黒塚(くろづか)●
紀州の僧・東光坊祐慶が安達ケ原を旅している途中に日が暮れ、岩屋に宿を求めた。
岩屋には一人の老婆が住んでいた。
裕慶を親切そうに招き入れた老婆は、これから薪を拾いに行くと言い、奥の部屋は決して見てはいけないと裕慶に言い残して岩屋から出て行った。
しかし、裕慶が好奇心から戸を開けて奥の部屋をのぞくと、そこには人間の白骨死体が山のように積み上げられていた。
裕慶は、安達ケ原で旅人を殺して血肉を貪り食らうという鬼婆の噂を思い出し、あの老婆こそが件の鬼婆だと感付き、岩屋から逃げ出した。
しばらくして岩屋に戻ってきた老婆は裕慶の逃走に気付き、恐ろしい鬼婆の姿となって猛烈な速さで追いかけて来た。
裕慶のすぐ後ろまでせまる鬼婆。
絶体絶命の中、裕慶は旅の荷物の中から如意輪観世音菩薩を取り出して必死に経を唱えた。
すると裕慶の菩薩像が空へ舞い上がり、光明を放ちつつ破魔の白真弓に金剛の矢をつがえて射ち、鬼婆を仕留めた。
鬼婆は命を失ったものの、仏の導きにより成仏した。
裕慶は鬼婆を阿武隈川のほとりに葬り、その地は「黒塚」と呼ばれるようになった。